脳内現象

最近自分の過去の作品を振り返る機会があり、驚きと失望を同時に感じている。

驚きは「ああ、私はしっかり作品を作れているじゃないか。結構良い作品じゃないか。綺麗だぞ」失望は「今、これだー!と思って取り掛かっているアイディアと、結局当時の考え方は変わっていないな」ということ。

酸いも甘いもいろんな経験をし、自分にできる限りの知識という物を身に付け、いろいろ得たり、失ったり。そんな時間が経過した後でも自分は自分だった。変わらない自分がいた。

失望と言えど、自分自身を少し微笑ましくも思う。場所や時代が変わっても本当の興味って変わっていないのね。

同時に、私はこの自分の肉体と精神と一生お付き合いをしていかなければならない、これらを最大活用しなくてはならないので、この脳外にはみ出るようなぶっとんだアイディアなんで生み出す事ができないのではないかとちょっと落ち込み気味になる。

私の持っている細胞は唯一無二で、私が見ているものは私にしかわからない。それをポジティブに捉えられる日もあれば、落胆してしまう日もある。

でもまず何より、自分自身を理解して愛してあげたいと思う。鏡の中には、見たい自分が映っている。それは本当に自分を客観視できていることにはならない。本当の自分を自分が見てあげなきゃ、誰が見るの。そろそろ自分を認めてあげようよ。

私は茂木健一郎さんが好きで、著書も読ませて頂いている。おそらく彼の作品で私が読んだ最初の本が「生きて死ぬ私」(ちくま文庫)。最近また読み返している。

読んでいると、救われる。この苦しみって、他の人も感じているものなんだって。

茂木さんは言う。”それは、私の心の中で起こることの全ては、私の脳の中で生じるニューロン(神経細胞)の発火によって引き起こされている「脳内現象」にすぎないと言う命題である。”

目の前の空の色、鳥のさえずり、水の味、プロ野球を見る興奮は、全て脳内のタンパク質や核酸などの働きでしかない。

不思議だ。こうやって身体的に胸が重いのに。心は、感じていることは、脳内現象でしかない。

掛田智子